金融教育とは何か 小中高の授業例を教育専門メディアが解説

金融教育とは何か 小中高の授業例を教育専門メディアが解説
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 金融教育とは、お金や金融のさまざまな働きを理解し、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に判断し行動できる態度を養う教育だ。従来の学習指導要領でも、お金や金融に関する知識を学ぶ機会は全ての校種の科目に断片的に組み込まれていたものの、それでは不十分だという各方面の要請に応じ、学習指導要領の改訂を機に内容が拡充された。この記事では、金融教育の重要性や目的、国内での実践例、現在の金融教育が抱える課題などについて、金融や資産形成の専門家らの談話を交えて詳しく解説する。

 

1.金融教育とは何か? その重要性と目的


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なぜ金融教育が必要なのか

 金融教育が学校で必要とされる理由について、日本銀行情報サービス局に設置されている「金融広報中央委員会」は、「人が生活していく上でお金とは切っても切れない関係にある」とした上で、「(お金と関わる)行為の一つ一つは、必要な情報を集め、慎重に考え、納得した上で選択することが必要である。よりよい暮らしを築くため、しっかりした意思決定の力を子供の頃から養っておくことは、時代の如何に関わらず、基本的でかつ大切な教育である」と説明している。

 また近年、金融教育の必要性が訴えられるようになった背景について同委員会は、次のように説明している。

①生活環境の変化

・現在の子供たちは、お金やものに囲まれた環境の中で育ち、インターネットやスマートフォン、電子マネーなどキャッシュレス決済手段の普及などもあって、欲しいものが容易に、かつお金を使っているという実感をもたずに手に入る生活を送っている。

・お金の価値に関する実感や生活感が薄れ、安易な消費行動や借入態度が広がっていけば、将来、生活力に乏しい大人や多重債務者の増加を招くことにもなりかねない。

・このような時代だからこそ、改めて子供たちにお金の価値を実感させ、お金と正しく付き合う意識と態度を身に付けさせることが強く求められている。

②経済社会環境の変化

・日本の経済は、少子高齢化や人口減少という成長制約要因を抱えながら、自らの力で新しい発展の道を切り開かなければならない時代に移行している。また、2022年4月から成年年齢が引き下げられ、18歳から未成年者取消権がなくなった。これに伴い、成年年齢到達直後の契約トラブルの発生が懸念されている。

・若者には一人一人がそのもてる力を最大限発揮して、経済社会の活力向上に寄与することが求められる。また、自由度や選択肢が広がる一方で、生活(職業)、財産、人生経路等に関する不確実性が高まっているため、これまで以上に、個々人が社会保障制度をはじめとしたセーフティネットを踏まえた上で自らのリスクをしっかり認識し、判断に必要な情報を収集して、自己の責任で的確に意思決定していくことが求められる。

 こうしたねらいや背景のある金融教育について、20万部を超えるベストセラーとなったお金の教養小説『きみのお金は誰のため』で分かりやすく解説しているのが、学校での講演活動もする田内学さんだ。「“投資する側”だけを育てようとしている今の金融教育には大きな問題を感じる」と指摘する同氏が、学校の金融教育に必要な視点などを語った特集記事は、教育新聞で読むことができる。

関連記事:本当に必要な金融教育 『きみのお金は誰のため』田内学氏に聞く

金融庁などによる「金融教育プログラム」

 金融広報中央委員会らを発起人に、金融庁・消費者庁・文部科学省など各省庁と有識者らをメンバーとして2024年4月に設立された認可法人である「金融経済教育推進機構(J-FLEC)」は、2020~2022年版学習指導要領に基づき、高校卒業までに学習すべき金融教育の分野を以下の4つに分類した。

①生活設計・家計管理に関する分野

②金融や経済の仕組みに関する分野

③消費生活・金融トラブル防止に関する分野

④キャリア教育に関する分野

 また、各学校段階での金融教育の目的や内容については、J-FLECが「金融教育プログラム」を作成し、次のように説明している。

〇小学校

 低学年では、お金の大切さ、ものやサービスの利用の対価としてのお金の役割、払い方についての学習を主体とする。

 中学年では、ほしいものと必要なものの区別の仕方やこづかい帳などを活用したお金の管理、預金すると利子がつくことなどを学習する。

 高学年では、生活に関わるさまざまなお金の働き、預金や貸付などの銀行の機能について学ぶ。経済把握や経済変動、経済政策、社会保障の存在など、金融にまつわる社会の仕組みについての学習も含む。

〇中学校

 家計の収入と支出、カードなどの見えないお金の使い方やリスクなど、より高度な経済活動や市場の仕組みなどを学ぶ。金利などの仕組みについても理解を深め、貯蓄や運用によるメリット・デメリットを把握することで、自身で将来に向けた資産形成に取り組む姿勢を身に付ける。

 また、生活設計の必要性やローンの仕組みやリスク、為替の原理などについても学び、より経済的に自立するための金融知識の習得につなげる。

〇高校

 より高度な生活設計の重要性や社会的責任について学び、大人として自立するための能力を養う。

 具体的には「電子マネーや地域通貨」「決済機能の多様化など現代社会の仕組み」「預金、株式、債権、投資信託、保険等の基本的な金融商品の特徴」「住宅ローンや貸与型奨学金の仕組み」「金融商品についてのリスクとリターンの関係と分散投資などのリスク管理方法」などを学ぶ。

 また、生涯収入や支出を理解し、生活設計を立てたり、年金や社会保障制度の仕組みや役割を理解したりすることを通じて、生活におけるさまざまな場面で、よりよい判断・行動ができる人格形成を目指す。

 日本政策投資銀行の銀行員として第一線で働いた経験を有し、現在は都内の高校で非常勤講師として金融教育の授業を担当する羽田良之さんが、学校での教え方のコツや具体例などについて語った特集記事は、教育新聞で読むことができる。

関連記事:金融教育どう教える 元銀行員教師「主体的な思考が大切」

さらなる拡充に向けて

 次期学習指導要領については、改訂に向けた論点の一つに、公立小中学校の授業時間を短縮し、各学校の裁量で使える時間を拡大するという動きがある。こうした文部科学省の検討について、子供を持つ保護者たちは新たに創出される時間を「コミュニケーション能力を育む教育」や「金融教育」に力を入れてほしいと考えていることが、2024年5月に公表された調査結果で分かった。調査の詳細な内容については、教育新聞のニュース記事で読むことができる。

関連記事:授業時間短縮なら「コミュ力向上」「金融教育」を 親世代に調査

 また、日本財団は2024年3月、国内の17~19歳の若者を対象に実施した調査の結果をまとめ、義務教育期間にもっと学んでおきたかったと思うことは、男女合わせた全体で「金融リテラシー」が1位だったと明らかにした。男女別に見ると、女性は「金融リテラシー」が1位だが、男性は「周囲の人とのコミュニケーションの仕方を身に付けること」をトップに挙げた。調査の詳細な内容については、教育新聞のニュース記事で読むことができる。

関連記事:義務教育でもっと学んでおきたかった 1位は「金融リテラシー」

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2.学校での金融教育の実践例



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 金融庁が関係省庁や有識者らをメンバーに設置した金融経済教育研究会は、2013年に示した「生活スキルとして最低限身に付けるべき金融リテラシ-」の内容を、年齢層別に、体系的かつ具体的に記し、2023年に「金融リテラシー・マップ」として公表した。これに基づきJ-FLECが、小学生~大人を対象に、お金について学ぶさまざまな教材を無償提供して、学校の授業での活用を求めている。

 また、金融広報中央委員会は自身が「金融教育元年」と定義付けた2005年から、「金融教育プログラム」を公開し、学校や家庭での活用を呼び掛けてきた。金融機関や民間企業も無償もしくは有償で独自の金融教育プログラムを提供している。教育新聞では、こうしたプログラムや外部講師を取り入れ先進的な授業を展開する学校を多数取材してきた。その詳細は、教育新聞のニュース記事で読むことができる。

小学校での事例

 東京都大田区立相生小学校では、4年生で金融経済教育プログラムを活用し、カードゲームを用いて身の回りの「活動」や「もの」に値段を付け、その値段を付けた理由をグループで対話しながら、それぞれが持つ価値観の違いについて学び合う授業を実施した。

関連記事:小学生が挑戦 カードゲームで対話しながらお金の価値を学ぶ

中学校での事例

 横浜市の横浜創英中学校で、『きみのお金は誰のため』の著者で社会的金融教育家の田内学さんを講師に迎えたプロジェクト型学習を実施し、「お金は一切使えないけれども、おいしい食べ物屋を開きたい。誰にどんな協力をしてもらえばいいか?」という課題を受けて2・3年生が田内さんにプレゼンし、フィードバックを受けた。

関連記事:お金の本質を学び、自分と社会の関係を考える 横浜創英中でPBL

 神戸市立平野中学校では、教育に関わりたい外部人材と学校をつなぐ民間サービス「複業先生」を活用し、トレイダーズ証券取締役の井口喜雄氏をゲストティーチャーに迎えた金融経済教育の授業を実施し、生徒たちは資料を元にどの国の通貨に投資すればいいのかを考えるグループワークに挑戦した。

関連記事:お金のことをみんなで話そう 外部人材で金融教育の授業を実践

 東京・千代田区の共立女子中学高校では、夏期講座「18歳から大人 大人になった時に知っていたいお金の話」が3日間にわたって実施され、「株たす」などの体験型投資学習アプリを使った株の売買に関する学習が展開された。

関連記事:投資アプリで金融リテラシーを学ぶ 共立女子中高で夏期講座

高校での教材開発

高校の金融教育については、金融庁が具体的な教材として「金融経済教育指導教材」を示した。同教材は次の7章で構成される。

①家計管理とライフプランニング

②「使う」

③「備える」

④「貯める・増やす」

⑤「借りる」

⑥「金融トラブル」

⑦まとめ

・教員の負担軽減も視野に

 長崎県の銀行や証券会社が発足した「ALL長崎金融リテラシー向上プロジェクト」は、学校現場から「教員の業務過多や苦手意識から、金融教育が十分に実施できない」という声があったことを踏まえ、学校現場の負担軽減も狙いに、独自の教材を開発し、県内の高校生への出前授業を実施している。その詳細は教育新聞のニュース記事で読むことができる。

関連記事:長崎県の金融機関が集結 高校生に金融経済教育の出前授業

・e-ラーニングで学べるボードゲーム形式の教材も

 e-ラーニングに関するコンテンツを提供するイー・ラーニング研究所は2023年、高校生向けの金融教育教材として、投資の仕組みを学べるボードゲームとして「投資のキホンを楽しく学ぶ 教育用!資産形成ゲーム」を開発したと発表した。同研究所が、金融教育の基盤づくりと整備に取り組む日本金融教育推進協会と共同開発した教材で、経済的現象に関するヒントを踏まえ、経済動向を予想しながら投資する金融商品を選択する。その詳細は教育新聞のニュース記事で読むことができる。

関連記事:疑似体験で投資を身近に 高校生向けの金融教育教材を開発

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3.金融教育の課題


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 拡充されたとはいえ、現在の金融教育には課題もある。「金融経済教育を推進する研究会」は2023年10月、高校の金融教育を実施する上で、「授業時数が十分に確保できない」と感じている教員が7割台半ばに上り、うち8割近くがその理由について「現行の教育計画にその余裕がない」と考えていると明らかにした。

 同研究会は2013年度、金融を専門とする大学教員や中学校、高校の現場教員が中心となって発足したもので、同年1~3月、全国の高校教員(公民科・家庭科)と高1の生徒を対象に、郵送とオンラインを併用して調査を実施していた。同研究会の調査や訴えの具体的な内容については、教育新聞のニュース記事で読むことができる。

関連記事:高校の金融教育、時数の確保困難75% 教育計画に余裕なく

 また同研究会は2024年4月、金融教育の一層の拡充を求める要望書を文部科学省に提出したと発表した。同研究会の中学校や高校の現場教員が独自に実施した調査の結果、現行の学習指導要領では、教員の知識や指導体制、生徒の理解などの面で課題が見られたと明らかにし、教科の新設などを検討するよう求めた。同研究会が次期学習指導要領に求めた具体的な内容については、教育新聞のニュース記事で読むことができる。

関連記事:次期指導要領では金融経済教育の充実を 識者らの研究会が要望書

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