教員の過労死から見る働き方改革 裁判関係者が学会で議論

教員の過労死から見る働き方改革 裁判関係者が学会で議論
教員の過労死の背景などを議論したパネルディスカッション=オンラインで取材
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 過労死防止学会は9月7日、教員の過労死問題の視点から学校の働き方改革の課題を考えるパネルディスカッションを開いた。教員の過労死などの裁判に関わった関係者らが、長時間労働が生まれる背景や給特法の問題点を議論した。登壇者からは、時間外勤務手当(残業代)を支払わないとしている給特法によって際限なく業務量が増加し、責任の所在が曖昧(あいまい)になってしまったとの指摘や、社会教育や教員養成の場で、教員の働き方や学校の在り方を考えていく取り組みが必要だといった提案があった。

 パネルディスカッションは京都市の龍谷大学深草キャンパスで開催された、同学会第11回大会のプログラムとして行われた。

 大阪府立高校の教師で、過重労働による適応障害で休職し、管理職の安全配慮義務違反を争った裁判で勝訴した西本武史さんは「仕事が増加したにもかかわらず、人を増やさずにきたことが一番の問題だ。『もうちょっと頑張って』が繰り返されて今に至ってしまった」と、学校現場の状況を報告。さらに「全ての教員が午後8時、9時まで残っているかというとそうではない。定時で帰っていく先生もいる。業務に偏りが生じている。いろいろな仕事を抱えている教員がいる。特に20代、30代の若手教員に仕事が集中している」と、業務負担がアンバランスになっている点も問題だとした。

 その上で、勤務時間外の業務を教員の自主的・自発的なものと整理している給特法は廃止すべきだとした。

 西本さんの裁判や、教員の過労死を巡る裁判を担当した過労死弁護団全国連絡会議代表幹事の松丸正弁護士は、教員の長時間労働による過労死などで安全配慮義務違反が認められた裁判を振り返り、「長時間労働によって過労やストレスが過度に蓄積すると心身の健康を損なうのは、周知の事実だ。給特法であろうと給料についてどういう制度であろうと、心身の健康という問題を見たときには、民間の労働者であれ公務員であれ、公務員の中の教員であれ、皆同じはずだ。(服務監督者の)責任の重さも同じようにあるので、勝訴は当然の判決だ」と強調。

 一方で「自治体に代わって教育の現場では、学校の校長先生が安全配慮をすべき主体になる。校長先生が十分な配慮を尽くさなかったが故に長時間労働が生まれ、その結果、過労死などが生まれたので、その責任を取るという形にならざるを得ない。本来の責任は教育委員会にあると思う。さらに十分な定員を学校に配置していない国の教育行政にあるはずだ」とも話した。

 生涯学習・社会教育が専門の池谷美衣子東海大学准教授は、学校以外が担うべき業務などに地域住民の協力を求めている点について、「例えば登下校の対応や補導の対応は社会的に不要になるわけではなく、絶対に誰かがやらなければいけない。そこに家庭の責任の強化と地域への期待が政策として描かれている。では、(家庭や地域は)それに協力できる状況にあるのか」と疑問を投げ掛け、共働き世帯の増加や地域の空洞化などによって、それらの業務を家庭や地域が担うことは難しく、結局は学校に戻ってきてしまうことを危惧。

 学校の周辺から教員の労働環境を変えていくためには、さまざまな大人が教員の働き方や学校教育の在り方を学んだり考えたりする機会をつくったり、教員養成の場で、学校現場の職業意識を変えていく力を育んだりしていく必要があると提言した。

 

【キーワード】

過労死 仕事による過労やストレスによって、脳・心臓疾患、呼吸器疾患、精神疾患などを発病し、死亡してしまうこと。うつ病を発症するなどして自殺に至る場合もある。発症前2~6カ月にわたり約80時間の時間外労働が続く状態などを「過労死ライン」といい、労働災害に認定される際の目安となっている。

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