第6回 小児慢性疲労症候群と小児期逆境体験

第6回 小児慢性疲労症候群と小児期逆境体験
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 前回に続いて「エピジェネティクス」に着目します。今回は連載のテーマである不登校等の長期欠席支援という文脈に話を戻して、社会的要因が生物学的要因に影響を与え、それが心理学的要因にも影響を与えている可能性について考えます。

 10年近く前になりますが、理化学研究所などのグループが「小児慢性疲労症候群は報酬の感受性低下を伴う-学習意欲の低下を招く脳領域の活性低下-」と題したプレスリリースを公表しました。

 小児慢性疲労症候群(CCFS)は、3カ月以上の持続的な疲労があり、疲れやすく回復しづらいのが特徴です。関連文献の知見も総合すると、不登校を主訴として大学病院を受診したケースに限って言えば、半数以上が診断基準を満たすとも言われています。

 学校教育に関わる側面としては、記憶力や注意力の低下、学習意欲の低下といった心理学的要因として見えやすい事項が特徴に含まれますが、その背景には脳の線条体が活性化されず、報酬に対する感受性の低下状態が関係していることも報告されています。

 ここで言う「報酬」とは、先生に言葉で褒められたり保護者からご褒美をもらえたりするような出来事はもちろん、生活の中で楽しいとか面白いと感じる「刺激」全般のことを指します。その感受性が低いと、日常のちょっとしたことに喜びを見いだすのが難しくなります。故に、刺激の強いゲームなどに依存しやすくなる面があります。

 つまり、一見すると心理学的要因と思われる背景に、脳領域での変化なども伴う形で生物学的要因が想定されることもあるわけです。ここで気になるのは、その小児慢性疲労症候群が発症する背景要因です。

 まだ研究途上の領域ですが、現時点で想定されていることをまとめると「小児期逆境体験(ACE)」と表現されます。子ども時代のトラウマ(心的外傷)を引き起こすような出来事を広く指すもので、BPSモデルで言えば社会的要因ということになります。

 逆境やトラウマという言葉から、児童虐待を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、第3回で取り上げた学校でのいじめ被害のほか、暴力や差別、貧困、事件・事故、自然災害など、幅広く捉える必要があります。つまり、震災やコロナ禍もこの概念に含まれます。

 ようやく本題ですが、こうした社会的要因が小児慢性疲労症候群などの生物学的要因に影響するメカニズムの一つとして、エピジェネティクスが想定されるわけです。次回、その一部にはなりますが、より具体的な現象を取り上げて、その対応策まで掘り下げます。

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