第9回 ワークルール教育の実施に向けた課題とその対策

第9回 ワークルール教育の実施に向けた課題とその対策
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 前回、既に行われているさまざまな学校でのワークルール教育の実施例や実施に向けた外部講師派遣の相談窓口などを紹介した。とはいえ、全国津々浦々、全ての子どもたちにワークルール教育を実施すべきとすれば、現状のワークルール教育の広がりは不十分だし、実現にはいくつかの課題もある。

東京弁護士会ホームページより
東京弁護士会ホームページより

 そもそも、ワークルール教育の意義や実施方法が、十分学校関係者に周知されていないので、実施に向けた手順含め周知が必要だ。しかし、その点がクリアされても、課題はまだ残る。

 まず、受け入れる学校側の時間的余裕のなさ(長時間労働)だ。外部講師を招いて実施しても、手配の事務負担はあるし、振り返り授業の準備なども行えばさらに負担がかかる。教員の長時間労働の問題は深刻で、業務削減の必要性が強く指摘される中、新たな業務(ワークルール教育の実施)を広げるのは難しい。実効性ある教員の長時間削減の取り組みは、ワークルール教育を進める上でも重要で、ワークルール教育推進と同時に克服すべき課題と言える。

 次に予算の問題だ。実施したくても、外部講師を招くための予算でためらわれることも多い。無料で外部講師を招くのはなかなか難しいが、中には意外と低額であったり無償対応する団体もある。また、厚労省の過労死啓発授業の制度を使えれば、学校側の講師費用負担はない。

 必要な予算が明記されていない窓口も多いが、できるだけ実施する方向で個別に調整したい意図があるのだろう。確保できる予算を素直に伝え、打診するのがよい。

 さらに、学校側のワークルール教育に対する忌避感も課題だ。内容に権利行使の意味やその手段として労働組合の説明などが多く含まれると、学校関係者から中立さの点で疑問を呈されることもある。

 子どもたちにルールを順守させ、社会への順応に向けて意味を見いだしている学校関係者にとっては、職場で不正にあらがうことの意義を強調する教育には違和感があるのかもしれない。ワークルール教育は、文部科学省が主権者教育で身に付けさせるべきとする力(他者と連携・協働しながら、社会を生き抜く力や地域の課題解決を社会の構成員の一人として主体的に担う力)とも適合的だし、労働組合の存在は憲法に明記されているのに…。

 これらの課題を克服する起爆剤として筆者が期待するのが、ワークルール教育推進法の制定であり、詳細は次回解説する。

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