通信制高校の在籍者はこの10年で大きく増加し、2024年度には29万人に達しました。中でも注目されるのは、進路選択の初期段階で通信制を選ぶ生徒の増加です。15歳と16歳の在籍者数は、14年度の計約6万3000人から24年度には約14万7000人へと232%の伸びを示しました。これは全体の伸び率158%を大きく上回っており、かつては中退後や進路変更後に選ぶことが多かった通信制が、今では「最初から選ぶ」学校へと変化していることが分かります。
背景には、不登校の増加とその質的変化があります。文部科学省の調査によれば、23年度の小中学校における不登校児童生徒数は34万6482人で、そのうち中学生は21万6112人に上ります。かつては体調不良や人間関係の不調和など、やむを得ない理由で登校できないケースが大半でしたが、近年は「積極的不登校」と呼ばれる子どもも増加しています。これは、自らの興味・関心や価値観に基づき、従来の学校生活よりも他の学びや活動を優先する生徒を指します。例えば、海外留学の準備や芸術活動への専念、スポーツ競技の強化、起業や専門技術の習得など、時間と環境の制約が少ない通信制の特性が魅力となっています。
この傾向は、学びの目的意識の変化とも関係しています。通信制高校の生徒像は、「学校に通えないから仕方なく」という消極的理由から、「自分らしい学びを求めて選ぶ」という能動的理由へとシフトしています。20年以降のコロナ禍はオンライン学習の普及を一気に加速させ、地理的距離や通学時間の制約を取り払いました。これにより、地方や海外に住みながら都市部の通信制高校の授業を受けることも可能になり、生徒の選択肢は飛躍的に広がりました。
一方で、この流れには課題もあります。通信制の魅力は柔軟性にありますが、自由度が高いが故に学習習慣が定着しづらいという声もあり、特に進路支援や生活リズムの形成では学校側のサポートが不可欠です。また、「積極的不登校層」と「学習意欲が低下している層」が同じ学級内に在籍する場合、それぞれに適した関わり方や指導法をどう確立するかも現場の大きな課題になっています。
通信制高校は今や「新たなスタンダード」として存在感を増しています。生徒の多様化は学校選びの多様化であり、そこには社会全体の価値観の変化が反映されています。そして、生徒の多様化を支えるために、通信制高校にはさまざまな学びの形態が生まれています。それぞれの仕組みや特徴を理解することは、生徒一人一人にとって最適な進路選択につながります。次回は、その代表的な形態と特徴について整理していきます。