いじめ対策 学校や国などの最新の取り組みを教育専門メディアが解説

いじめ対策 学校や国などの最新の取り組みを教育専門メディアが解説
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 いじめ対策は、学校教育で最優先に取り組むべき重要課題だ。いじめを苦に自殺した子どもの事例が毎年のように報告されていることなどから、日本全体の課題だという認識が広まり、対策のための法整備がなされた。それに基づいて文部科学省が、先進的に取り組む自治体や学校の成功例などを基に、いじめの未然防止や早期発見・早期対応を目的とした支援の在り方を示している。本記事では、いじめ対策として国や学校などが進める最新の取り組みを分かりやすく解説する。

1.「過去最多」の現状

iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
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 文部科学省は2023年10月、「児童生徒の問題行動・不登校調査」の結果を公表し、児童生徒の生命に関わるいじめ重大事態の発生件数が22年度に923件となり、過去最多となったことを明らかにした。

 この調査は毎年度実施されているもので、教育現場における生徒指導上の取り組みを充実させ、児童生徒の問題行動等の未然防止、早期発見・早期対応や、また、不登校児童生徒への適切な個別支援につなげていくことを目的としている。

 22年度調査によれば、いじめ重大事態のうち4割弱に当たる357件は、重大事態として把握する以前にはいじめとして認知されていなかった。また、学校におけるいじめ認知件数は21年度から1割増となる68万1948件で、これも過去最多となった。同調査の詳細や文部科学省の担当者による分析のほか、「いじめ重大事態は抑止できる」と語る千葉大学教育学部長・教授の藤川大祐氏の談話を、教育新聞のニュース記事で読むことができる。

【いじめ】重大事態、過去最多923件 4割弱が事前認知せず

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2.生徒指導提要に書かれているいじめ対策

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 22年に12年ぶりに改訂された生徒指導提要でも、いじめ対策は児童虐待やインターネットの利用に関する問題などと並び、現代の最重要課題として未然防止などに向けた取り組みが求められている。生徒指導提要は文部科学省が作成するもので、小中高の生徒指導の理論・考え方や方法をまとめた学校・教職員向けの基本書だ。22年に改訂されたものはデジタルテキストと冊子版が公開されている。

 生徒指導提要では、いじめ対策について第Ⅱ部「個別の課題に対する生徒指導について」の第4章「いじめ」でまとめられている。まず、いじめ防止対策推進法に示された定義にのっとり、いじめの積極的な認知について言及した上で、「いじめ防止基本方針」の具体的展開に向けた各学校における見直しと共有をはじめとした4つの対策を求めている。

 教育新聞では、生徒指導提要の内容など学校教育に関する重要事項を、教員採用試験対策専門スクールkei塾主任講師の神谷正孝氏が分かりやすく解説した連載を掲載している。

【神谷正孝の教育時事2023(6)】生徒指導提要改訂(2)生徒指導提要「いじめ・不登校への対応」について

文部科学省 生徒指導提要(改訂版)

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3.文部科学省など国レベルでの取り組み

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ガイドラインの策定と改訂

 文部科学省は「いじめ問題を含む子供のSOSに対する文部科学省の取組」と題した専用サイトを立ち上げ、「いじめ問題について、これまで以上に学校、教育委員会、国、さらには家庭や地域も含めた社会全体が一丸となって問題に取り組んでいくことが必要」と述べている。

 いじめの定義について、06年度からは「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」としていたが、国が13年9月に「いじめ防止対策推進法」を施行したことに伴い、「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」に変更された。

 同法では、いじめの中には、犯罪行為として取り扱われるべきと認められ、早期に警察に相談することが重要なものや、児童生徒の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるような、直ちに警察に通報することが必要なものが含まれるとした上で、これらについては早期に警察に相談・通報し、警察と連携した対応を取ることが必要だと明記した。

 文部科学省は、同法の施行を受けて17年、いじめの重大事態の調査に関するガイドラインを策定した。一方で、同法やガイドラインの内容が学校現場に十分浸透していなかったことなどを原因として、学校と教育委員会の連携不足で対応が遅れるケースが相次いだことを踏まえ、ガイドラインは7年ぶりに改訂され、24年8月に全国の都道府県教育委員会などへ通知された。この改訂の詳細な内容や今後の見通しについては、教育新聞のニュース記事で読むことができる。

いじめ重大事態調査改訂でチェックリスト 全国に通知

文部科学省 いじめの重大事態の調査に関するガイドラインの改訂について(通知)

いじめ対策マイスター制度の発足

  ガイドラインの改訂を踏まえ、文部科学省は24年9月、教育委員会に警察OBや保護司などによる「いじめ対策マイスター」を設置して、学校でのいじめ事案への早期対応や再発防止を支援する制度づくりに乗り出すことを決めた。

 背景として、23年度のいじめの重大事態件数が923件と過去最多で、犯罪行為として扱われるべき事案など学校だけでの対応が難しいケースが増えているほか、学校外やネットでのいじめが原因となるケースなど、学校だけで再発防止策を立てることが困難な状況が生まれていることがある。

 同マイスターの設置箇所や文部科学省の担当者によるコメントなど詳細は、教育新聞のニュース記事で読むことができる。

いじめへの早期対応支援 いじめ対策マイスター制度創設へ

こども家庭庁が進めるモデル事業

 こども家庭庁は24年度、自治体の首長部局でいじめ対策の体制づくりを支援するモデル事業を8つの自治体で展開している。同年1月にはシンポジウムを開催し、このモデル事業に取り組む北海道旭川市と熊本市が事例を発表した。

 同シンポジウムでは、こども家庭庁のモデル事業を行っている自治体に対して伴走支援をしている子どもの発達科学研究所の和久田学所長が基調講演し、いじめ対策を地域全体で取り組んでいく意義について語った。同所長は、公開されているいじめの重大事態報告書を分析する中で、多くの原因はいじめの認知と組織的対応が取られずに、特定の教員が抱え込んでしまうことにあるとし、こうした教員個人の対応がうまくいかない理由の一つにシンキング・エラー(認知の間違い)があると指摘した。

 こども家庭庁の取り組みやシンポジウムの詳細については、教育新聞のニュース記事に掲載されている。

首長部局と連携したいじめ対策 こども家庭庁がシンポ

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4.教育委員会・学校レベルでの取り組み

iStock.com/joka2000
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 東京都教育委員会は22年11月の定例会で、前年度にいじめの認知件数が再び増加に転じ、小中学校でアンケート調査が発見のきっかけになるケースが多かったことなどを明らかにした上で、こうした結果を踏まえながら付属機関である東京都教委いじめ問題対策委員会への諮問事項を決定し、いじめ防止の取り組みの検証・評価、対策の推進を議論することを明らかにした。

 委員から未然防止だけでなく早期対応の大切さを指摘する意見や、教員の多忙化を懸念する意見などが出された同定例会については、教育新聞のニュース記事で読むことができる。

都教委、いじめ対策で諮問 アンケートなど学校の対応が鍵に

 また、東京都教育委員会は24年8月、定例会でいじめ防止のための取り組みについて、推進状況や今後の方策を報告した。加えて教職員の対応力を向上させるため、成功事例や失敗事例から対応のポイントを分析する問題解決型の教員研修などを検討する方針が示された。東京都教委いじめ問題対策委員会の委員が「効果的だ」などと評価した取り組みの内容については、教育新聞のニュース記事で読むことができる。

いじめ防止に「問題解決型の教員研修」 都教委が対応力向上策

 教育新聞では、いじめ対策に関する連載も展開している。特定非営利活動法人「Protect Children~えいえん乃えがお~」代表で、いじめ被害児童の親でもある森田志歩さんは、連載初回で「学校や教育委員会の対応がいつも問題視されながら、なぜ徹底した原因究明や改善が行われないのか」と問題提起し、いじめ防止対策の在り方を自身や他の保護者らの経験を基に論じている。

【いじめに向き合う学校(10)】これからのいじめ防止対策

 また、佛教大学副学長・教育学部教授の原清治氏は、ネットいじめに焦点を当てた連載を執筆し、ネットいじめ固有の問題を含めたいじめ全般を論じた上で、その防止や早期発見・早期対応に向けた方略と成功例を詳しく述べている。

【ネットいじめの今(9)】ネットいじめをどう「見つける」か

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5.有識者の指摘

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 教育新聞では、教育関係の研究者らが学校現場や自治体、そして文部科学省など国の問題に切り込む「オピニオン」欄を設け、定期的に掲載している。千葉大学教育学部長・教授の藤川大祐氏は、学校や教育委員会などが文部科学省のガイドラインに違反する原因として、ガイドラインに法的根拠があいまいだという問題があると指摘。いじめ防止対策推進法にガイドラインについての規定がなく、ガイドラインにも自らの法的根拠についての記載が見られないことについて取り上げ、持論を展開した。

いじめ重大事態調査ガイドライン 明確な法的根拠を(藤川大祐)

 教育新聞では、いじめ対策をテーマとした特集も掲載している。東京都町田市立小学校6年の女子児童が、同級生からいじめを受けていたという内容の遺書を残して自死したことを巡り、学校側が当初、いじめ防止対策推進法に基づく「重大事態」として対応しなかったことや、GIGAスクール構想で配布されたタブレット端末のチャット機能で児童の悪口が書き込まれたりしたことなどを踏まえ、学校現場がどう対応すべきか、千葉大学の藤川大祐教授に詳細に聞いた。

「ICTと生徒指導を包括的に」 小6女児自死、藤川教授に聞く

 同様にいじめ対策をテーマとした別の特集では、これまで数々のいじめ事案に第三者の立場で介入し、解決に導いてきた特定非営利活動法人「Protect Children~えいえん乃えがお~」代表で、いじめ被害児童の保護者でもある森田志歩さんにインタビューし、保護者や子どもを傍観者のままにさせない方策などについて聞いた。

いじめ対策の核心「保護者の問題を直視せよ」 森田氏に聞く

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6.海外のいじめ対策

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 教育新聞では、「海外のニュースを読む」「世界の教室から」などのコーナーを設け、外国の教育事情についても定期的に発信している。いじめ問題が特に深刻で、10人の子供のうち1人が繰り返しいじめを受けていたという調査結果があったフランスでは、抜本的な対策として、いじめを刑法の対象として処罰する法律が22年3月から施行された。

「100%の予防、発見、対応」 フランス政府のいじめ対策

 フランスでの同法可決の背景にあった事件の概要や、警察の介入の様子、同法の詳細については、こちらの記事で読むことができる。

【海外の教育ニュースを読む】 フランス下院がいじめ処罰法を可決

 同様にいじめなど校内暴力が深刻な社会問題となっている韓国でも、政府が対策に苦慮しているという。23年に大学生1030人を対象に行われた調査では、34.3%がいじめなど校内暴力にあったと答え、そのうちの54.4%が自殺を考えたことがあると答えた。調査の詳細やいじめ対策のための法律とその成果や課題については、教育新聞で読むことができる。

いじめ加害者の受験生は入試で「減点」、政府が大学に求める 韓国

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