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教員の過酷な労働環境は社会的にも問題視されており、早急に働き方改革を進める必要があります。この記事では、学校現場の働き方改革を進める手立てや成功事例を紹介します。教員の働き方改革が円滑に進まない理由やデジタル化の意味とメリットも分かるため、教員の働き方改革に取り組む際の参考にしてください。
目次(Index)
1. 教員現場には働き方改革の推進が急がれる
2. 教員の働き方改革が進まないのはなぜか
3. 教育現場場の働き方改革を進める取り組みとは
4. 働き方改革を後押しするデジタル化とは
5. デジタル化のメリットとは
6. 働き方改革をめぐる最新動向
7. まとめ
教員の過酷な労働環境は、社会問題にもなっています。学校現場で働き方改革の推進を急がなければならない理由を解説します。
文部科学省の調査によると、10年前に比べて教員の労働時間は大きく増加しています。特に小中学校教員の時間外労働は長く、長時間労働の慢性化が問題になっています。過労により精神疾患を患う教員も多く、働き方改革を推進して、教員の長時間労働を改善することが必要です。
過重労働による心身の疲弊により、休職に追い込まれる教員も少なくありません。文科省が小中学校の教員を対象に実施した2016年度の勤務実態調査結果では、残業が「過労死ライン」の月80時間を上回っている教諭が小学校で33.5%、中学校では57.7%に上ることが分かりました。同じく文科省の調査によれば、精神疾患などで休職する教員の数は毎年5000人以上に上り、「高止まり」の状態が続いています。この人数に病気休暇が含まれないことを考えると、精神疾患などで休んでいる教員はさらに多いものと考えられます。
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教員が過労などで倒れて休職すると、担任や授業担当者、部活動顧問が別の教員に交代することになります。そのため、児童生徒や保護者にも「信頼していた先生がいなくなってしまった」と精神的なショックを与えます。結果として、子供が不登校に陥るケースもあります。
加えて、補充のために臨時に採用された教員が業務に不慣れな場合、他の教員の負担が増えます。その結果、新たな病休者を生み出してしまうという「負の連鎖」も起こり得るなど、現場に与える影響は大きいものがあります。
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教員が休職すると、通常は補充のために臨時的任用教員を雇いますが、現在はその人材が見つりづらい状況があります。そのため、授業が実施できなくなったり、教頭など管理職が学級担任を担当したりする事態が各地で起きています。
人材が見つからない背景の一つに、学校が「ブラックな職場」だとするイメージの定着があります。こうした状況を改善するためにも、教員が心身ともに健康的に働ける職場づくりは急務です。
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教育現場で働き方改革が進まない要因として、主に次の二つが指摘できます。
学校では、「オリジナルの教材を工夫して作る」「写真などを載せた学級だよりを毎日配布する」といった仕事の「丁寧さ」が、管理職に評価されたり、子どもや保護者に喜ばれたりします。それが教員のやりがいにつながっている側面もあります。
また、保護者と良好な関係を保つため、少しでも気になることがあれば電話で伝えたり、登校しぶりの子どもに個別対応をしたりするなど、多くの教員が各家庭への丁寧な対応を意識しています。
そうした仕事ぶりが求められる風潮は強く、結果として働き方改革が進みづらい側面があります。
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学校では、社会の要請に応じて教員の業務が増やされることはあっても、他の業務の見直し・削減が図られることはあまりありません。慣例的に行われてきた行事などが、目的もあいまいなまま毎年度同じように実施されているようなケースも少なくありません。結果として「足し算」ばかりで「引き算」が行われず、教員の仕事が増え続けてしまう傾向があります。
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働き方改革は進みづらい状況がありますが、もちろん改善は可能です。働き方改革を進める具体的な 取り組みを四つ解説します。
まず、「学校教育目標」に照らして育成したい児童生徒像を明確化し、その目標を達成する上で効果的ではない行事や取り組みについては、削減したり廃止したりするなど「業務のスクラップ」をしていくことが挙げられます。実際にこうした作業を教員間のワークショップで実施し、働き方改革に成功した事例が報告されています。
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働き方改革に取り組む上で、正確な労働時間の把握と管理は不可欠です。中央教育審議会答申で示された勤務時間の月間・年間の上限を遵守するためには、その第一歩として出退勤の時間を管理する必要があります。タイムカードやICカードを活用して、正確な労働時間の管理をすることが求められます。
また、学校全体で意識改革を図り、定時退勤を当然とする風潮を醸成するとともに、残業時間の意図的な改ざんなどは絶対にしてはならないという意識を根付かせることが重要です。職員会議などの定例会議にあらかじめ制限時間を設けるのも、勤務時間の削減に有効な手立てとなります。
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教員の業務を減らすには、教員の本務である授業以外の仕事を一つ一つ見直し、削減していく必要があります。教員でなくても可能な業務を外部スタッフに任せるのも効果的です。外部スタッフの例としては、スクールサポートスタッフや部活動指導員、ICT支援員、学習支援員などが挙げられます。部活動は、その分野に精通した専門の指導員を採用することができれば、指導の質の向上も期待できます。
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教員は、一般企業では総務部が担当するような事務作業も数多く担っています。そうした業務の多くは、本務である授業とは関係がないものですので、事務職員に担ってもらうことも視野に入れ、業務の見直しを行いましょう。もちろん、それで事務職員の残業が増えてしまったら意味がありません。必要に応じて外部人材を登用したり、デジタル化で業務効率化を図ったりする必要があります。
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近年、一般企業の多くが、クラウドサービスを活用するなどして業務の効率化を図っています。学校も同様に、デジタル化を通じて業務の効率化を図っていくことが重要です。
教員の働き方改革を推進する上で、学校のデジタル化は有効です。デジタル化を推進するメリットを二つ解説します。
ICT教育の導入により、手作業で行っていた事務作業が効率化され、作業時間が短縮されます。また、電子黒板を活用すると、資料や板書の準備時間を削減することも可能です。児童生徒に1人1台ずつ配備されたタブレット端末を活用すれば、授業のプリント印刷業務の削減もできます。
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学校では、採点や成績評価、調査書の作成、学校評価アンケートの集計、文科省や教育委員会に依頼された調査の結果集計など、数値・データを扱う業務が少なくありません。こうした作業に、コンピューターによる自動計算やマークシートでの自動読み取り、クラウドサービスを活用したデータの一元化を取り入れれば、作業時間を大幅に短縮できるだけでなく、計算や転記のミスも防げます。その結果、余計な仕事を減らすことが可能です。
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以下、教員の働き方改革に取り組む国や自治体などの最新動向を紹介します。
以下、教員の働き方改革に取り組む国や自治体などの最新動向を紹介します。
2016年度の勤務実態調査を受けて、中央教育審議会が2019年に答申を出しました。この答申では、「学校が担うべき業務」「月間・年間の勤務時間のガイドライン」などが明確に示されたほか、長期休業期間中に休日をまとめ取りする「変形労働時間制」の導入が提言されました。
ただし、変形労働時間制については「教員をより多忙化させる」といった批判もあり、現実的には十分な成果を上げているとは言えず、議論の余地があります。
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近年は、各自治体も働き方改革に取り組んでおり、成果を上げている所もあります。
横浜市では、各学校で把握した教職員の勤務状況や職場に対する意識などのデータを基に、校長が「教材の共有や相談をしていない」「助け合う雰囲気が高くない」「一部の教員に負担が集中している」などと分析し、教職員に向けて改善を呼び掛けました。
岐阜県下呂市では、市内の全中学校6校で、生徒の最終下校時間を午後4時半に繰り上げることにし、各校で6時限目の授業を部活動に切り替えるなどしました。その結果、教員の退勤が早まるなどの効果を上げました。
浜松市では情報システム会社などと連携し、市立小中学校から7校ずつを抽出して授業以外の業務について調査を行いました。その上で、各業務について年間どのくらいの時間がかかっているのかを集計し、改善策を検討・検証しました。
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「GIGAスクール構想の下での校務の情報化の在り方に関する専門家会議」において、校務のDX化による業務効率化に向けた検討が行われています。校務のDX化とは、これまでアナログで行っていたことをデジタルにし、仕事を省力化することです。具体的には、今まで紙のペーパーや口頭で伝えていた内容をチャットで送るようにしたり、通知表や指導要録、調査書などを成績データと自動連携させて簡単に作成できるようにしたりするなどの方法がすでに取り入れられています。
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1971年に制定された給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)により、公立学校の教員には残業代を支払わない代わりに給料月額の4%相当の「教職調整額」が支給されています。しかし、近年では長時間勤務が常態化している学校も多く、実残業時間とそれに対する対価が見合っていない現状があります。
そのため、教職調整額を規定した給特法が問題視されており、署名活動が展開されるなど見直しの機運が高まっています。
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部活動は教員の長時間勤務の大きな要因になっています。そうした状況を受け、2023年度以降、休日の部活動は段階的に地域移行される方針が示され、各自治体は休日の部活動に地域人材を活用するなどして運営できる体制を構築することが求められています。ただ現状では、部活動の指導者や活動場所、活動資金の確保などで苦労をする自治体も多く、一部の地域では活動費用を保護者から徴収することも視野に入れるなどしています。
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教員の働き方改革では、教員の負担を軽減させる外部人材の活用やデジタル化が必要です。また、学校全体で意識改革を図っていくことも求められます。教員の業務が削減されれば、余裕が生まれて子ども一人一人と接する時間も生まれます。子どもにも良い影響がある働き方改革を積極的に進めていきましょう。