公立中学校の「部活」が大きな変革を求められることになった。休日の運動部、文化部の活動が2023年度から段階的に学校の手を離れて地域に移行する。国は休日に続いて平日についても地域移行を目指しており、何年か後には、多くの人が経験のある部活とは全く違う形態になっている可能性もある。これまで学校、教員に大きく頼っていただけに、地域移行にあたっては人、予算などの面で課題が山積している。昨年から今年にかけて検討会議でまとめられた議論を、提言と教育新聞が報じたニュースをもとに振り返る。
地域移行の背景となった理由は主に2つ。まずは教員の働き過ぎの解消。文科省が16年に行った小中学校教員の勤務実態調査では、中学校では6割の教員が過労死ラインとされる月80時間超の残業をしていたことが判明。教員が土日に部活動に係る時間も06年と比べ、約2倍になっていることが明らかになった。いまや教員を志す学生の間では、教員の仕事環境がブラック化しているとの認識が広がっており、それは全国的な志望者減にもつながっている。
もう1つが少子化の進行。文科省の調査では公立中学校では平成の30年間で生徒数が約4割減、学校数も1割減となり、今後は学校単位で複数の部活動が成立しないケースが発生する問題が浮上した。このため生徒たちの活動機会を奪ってしまうとの懸念から、部活動を学校の外で実施することで、希望する多くの生徒が学校を超えて参加できる機会を確保するという狙いもあった。
これまでの部活動は生徒も保護者も疑問を持つことなく、学校、教員に任せておけばよかった。これは生徒の管理責任も学校に委ねることになり、保護者にはとても安心なシステムだった。だが、地域移行するとどうなるか。まずは学校に代わる実施主体をどうするかが問題となった。地域のスポーツ団体や文化芸術団体など、ありとあらゆるリソースが検討された。とはいえ地域格差の問題も浮き彫りになった。
次に、誰が教員に代わる指導者となるのかが大きな議論になった。実施主体が学校外の団体となることで、平日とは切り分けられて、日ごろ接している教員・部活動指導委員以外が生徒を指導することとなったためだ。いったい誰がその役を引き受けるのか? この問題は指導者の「質」と「量」の側面から議論された。まずは「質」。教員とは異なる指導者がどういった実力の持ち主で、どのような経歴を持つかは生徒、保護者には分からない。それをどう保障するか。その解決策として、指導者資格の取得、研修の受講が求められた。
また「量」の確保に関しては、一部の自治体で行われている先行事例から、現在起用している部活動指導員の活用、指導を希望する教師に兼職兼業の許可を与え、地域団体の業務を認めることも可能とするケース、企業・クラブチームから指導者の派遣、地域のスポーツ団体との連携による人材バンクの設立――といった方法が考えられた。このうち、教員の兼職兼業については、これまでも地方公務員法や教育公務員特例法の規定に基づいて任命権者の許可があれば可能であることに準拠。本人が希望すれば、本業に影響しない範囲で引き続き指導できる方向性も明記された。
会費の問題もある。学校での部活動では用具代などを別にすると、大きな負担は生徒・保護者にはない。ところが外部の受け皿では当然、指導料や月謝などの会費が発生する。地域移行において指導者の問題は生徒にとって、会費の問題は保護者にとっての大きなハードルになるとも予想されている。会費の問題にスポーツ庁や文化庁が注視するのは、その金額が大きくなると、スポーツ活動や文化活動への参加を躊躇(ちゅうちょ)する生徒が現れかねないということからだ。
これではせっかくの参加機会拡大を狙った地域移行が本末転倒になってしまう。そのため提言では受け皿となる実施主体の適正な運営を前提として、保護者にとって大きな負担とならないように、施設の低額での利用や送迎面で地方自治体や国からの支援が必要とした。経済的に困窮する家庭に対しては、地方自治体による費用の援助や地元企業による基金の設立、国による支援も考えられるとした。
部活動の地域移行の論点は生徒たちが参加する大会の在り方にも及んだ。全国大会など広域の大会は、生徒たちの日頃の練習の成果を発揮する重要な機会だが、少子化の影響で学校単位での参加が難しくなっている現状がある。地域移行した場合は学校単位だけでなく地域の団体の参加も想定されるが、主催団体の定める現行の規定では制限される場合もある。このため、大会参加資格の規定の変更が必要とされ、中体連は早速、主催大会の参加規定を変更し、学校外のスポーツ団体に対しても参加を承認する方向にかじを切った。同様に、全日本吹奏楽連盟と全日本合唱連盟が大会への参加資格を見直し、中学生が所属する地域の団体にも門戸を広げる方向で検討することを明らかにしている。
現行の中学校学習指導要領における部活動に関する記載についても見直しが求められた。というのも学習指導要領の総則で部活動が「学校教育の一環」と明記されており、実際は教育課程外の活動にも関わらず、多くの学校、教員の間で部活動が設置・運営され参加することが義務のような誤解が生じていたためだ。高校入試の際の調査書における部活動の評価を巡る問題についても言及された。
提言は部活動が地域移行するにあたっての問題点を細部まで列挙したが、実際に実行に移す地方からはさまざまな声が出ている。やはりその多くは都市部と地方との施設や人材の格差、それと財源にまつわるものだった。代表的な声としては、「地方では休日部活動の受け皿となる組織や団体の数が少なく、指導員の確保も難しい」で、経費の負担についても「小さな自治体では負担が大きい」とし、都市部と地方との格差を解消するため、国や地方自治体の支援を求める要望が多い。
多くの関係者にとっては、室伏広治スポーツ庁長官が6月6日に述べた「運動部活動は日本のスポーツにおいて重要な役割を果たしてきたが、少子化の進行に加え教員の働き方の面から見ても、今まさに改革が必要なタイミングだ」という認識に同感であろう。ただし上でも見たように現状把握や進め方に地域によって温度差があるのもまた事実だ。提言では、運動部も文化部も23年度からの3年間を休日の部活動の改革集中期間としている。残された時間は少なく、すでに現在各地でそれぞれの実情に応じた移行策の具体的な検討が進められている。部活動は長い歴史があるだけに改革をするのは並大抵ではないということは誰もが理解している。その上で教員も生徒も保護者も納得感のある次代の部活動の在り方を探っていかねばならない。